福田首相は本当に求心力を取り戻せるのか!?――解散総選挙の読み方――
「テロ特新法」と「薬害肝炎訴訟」
第168回臨時国会が2008年1月15日まで再延長された。これは新テロ特措法が参議院に送付されてから60日目が1月11日で、衆議院で再可決すれば成立させられる期日になるからだ。会期を15日にまでにしたのは、衆議院での再可決後の福田内閣に対する問責決議案を回避するためである。
福田首相は2007年の11月訪米で、ブッシュ大統領にインド洋の給油再開に全力をあげると約束してきた手前、どうしても法案を通さなければならない。しかし、福田内閣の支持率の急落とインド洋における給油活動再開についての反対意見が賛成意見を上回るなど、厳しい状況に立たされている。
自民党幹部が懼れていたことは、再延長しないまま、参議院がグズグズして国会が最終日にまでもつれ込み、民主党が「テロ特新法」を継続審議にしてしまうことであった。そうなると、同法案は1月末に開かれる通常国会では参議院先議となる。民主党が通常国会冒頭に否決すれば、「テロ特新法」は葬り去られてしまう。同一会期内での一事不再議という原則があるからだ。つまり、参議院で否決されれば、同一法案は衆議院で提出できないのである。そのためにも、是非とも臨時国会の再延長が必要だったわけだ。

まさに自民党のドタバタ劇であるが、現在の自民党に政局全体を見通して青写真を描けるような司令塔や参謀本部、もしくは指南役がいないことが影響している。これは与野党通じての現象ではあるが、特に自民党にその弊害が出ている。福田首相は森元首相にいろいろ相談を持ちかけているようだが、なんとも心もとない。大連立のときも、森元首相の動きがあったが、結局は失敗している。
そして自民党内部で危機感を高めているのが、福田政権の支持率の急降下である。軒並み30%の前半まで落ち込んでいる。支持率30%を切れば、その内閣は危険水域にあるあると言われ、福田内閣はギリギリのところまで追い込まれた。
その主たる要因は、年金問題での福田首相の不用意な発言である。「あれが公約といえるのかなあ」という他人事のような発言が国民の不信感を高めた。指導者としての福田首相の信用失墜である。これは、薬害C型肝炎訴訟についても言える。一律救済を求める原告団と「無謬性」を主張する厚生労働省が相容れることはない。そこで期待されたのが福田首相の「政治決断」であった。福田首相はようやく、12月23日に議員立法で薬害C型肝炎患者の一律救済を行うことを決定したが、これも時間がかかりすぎである。落ち込んだ支持率挽回のための策としか映らないのである。
福田首相はなかなか煮え切らない性格である。良く言えば慎重居士、悪く言えば優柔不断になる。ものの言い方も皮肉っぽく聞こえる。福田流と言えるものだが、国民には無責任、他人事のように振る舞っていると映るのだ。
解散総選挙で政権交代をどう防ぐのか
延長国会の流れからすると、いまのところ1月解散は考えられない。もちろんハプニング解散の要因もなくはないが、予算案が通らないことによる国政への影響は計り知れない。従って、野党も回避することになる。1月中旬に通常国会が開かれ、3月末か4月初めに予算案が通る。参議院で民主党が反対しても、予算は衆議院で通れば成立することになっている。問題は100本以上あるといわれている予算関連法案のゆくえだ。これが通らないと予算の執行ができない。その時点での解散総選挙は十分考えられる。
その4月を乗り切れば、6月は通常国会の会期末で7月の洞爺湖サミットを迎えることになる。解散は国会の会期中でしかありえない。従って、サミット後の秋の臨時国会での解散というのが大方の見方となっている。いずれにせよ、2008年中の解散総選挙ということで永田町はすでに動き始めている。
古賀誠自民党選挙対策委員長は、12月半ばまでに47都道府県すべてを回っている。そこで自民党の下部組織が弱り、かつての支持団体との協調関係もかなり破綻していることが判明した。解散総選挙では、どうしても自公合わせて3分の2超の体制は崩れる。それにより、今後少なくとも6年間は続くだろう衆参のねじれ現象に対する、自民党の「衆院での再可決」という伝家の宝刀も失われることになる。福田政権にとって、解散総選挙が鬼門になることは間違いない。
民主党の国会での攻勢に加えて、「問責決議案」を振りかざす山岡国対委員長。その威嚇に対して、自民党幹部はこう言っている。「参議院で問責決議が可決しても、憲法をはじめとする一切の法的拘束力がない。こちらは憲法69条に規定さている衆議院での信任決議案を可決する。これで問責決議も雲散霧消だ」と。しかし、これにも福田首相は与しないだろう。それよりも、大連立への未練から常設的な政策協議の機関を設けて、中長期的に国会を乗り切っていく考えを持っているのではないだろうか。このように政界は現在、自民党内部の強硬派と民主党への協調派、それを眺める民主党という三つ巴の様相を呈している。
古賀選対委員長にとって悩ましいのは、2005年の総選挙で誕生した新人83人の処遇だ。現在、小泉チルドレンと復党現職との調整区が6区、コスタリカが8区、15の候補者空白区がある。そして公明党との与党協力は9区である。しかし、岐阜1区の野田聖子議員と佐藤ゆかり議員のコスタリカは行わないと決定しているし、前回、比例区・東京ブロックの名簿順1位であった猪口邦子議員や小泉チルドレンの申し子の杉村太蔵議員なども選挙区を決めなければならない状態だ。
いずれにせよ、これまでのように公明党だけでなく、敵対的な関係になった国民新党や新党大地との連携も図らなければならないだろう。そのために、国民新党の綿貫民輔代表の選挙区には候補者を立てない模様だ。また北海道ブロックで43万票強を取った新党大地の鈴木宗男議員に対しても、北海道では1選挙区で4万近い票を取っているので、協調体制が取れるかどうかは重要な要素になる。自民党幹部が鈴木議員と会食をしたという情報もあり、きめ細かい選挙戦略を余儀なくされている。
福田政権はどこまで持ちこたえられるか
一方、福田首相の支持率低下という追い風があっても、民主党にとっての解散選挙は自民党同様に厳しいものがある。小沢代表は政権奪取のために、300の選挙区の半分は取ることを至上命題にしている。前回の総選挙では小選挙区では52議席で総数でも113議席どまり。過半数を取るためには240議席を目標にしなければならない。倍増しても過半数に達しないというハードルの高さは並大抵ではない。逆に自民党は、50~60議席減っても過半数体制は保てるのだ。
しかも民主党内部に、候補者は全戸訪問をしろとか何万回の握手をしろという小沢流選挙戦術が浸透しているとは言えない。小沢代表は、選挙は逆風の時に耐えられるような態勢が必要であり、後援会組織を自民党に学べと言っている。民主党は追い風でしか勝てない組織の弱さがある。公募によって候補者の数だけはは揃っているが、風任せの選挙では、一旦小泉旋風のような風が吹けば再び落選の波にのまれてしまうだろう。小選挙区の怖さは1993年に行われたカナダの総選挙で、与党の進歩保守党が154議席からわずか2議席という歴史的惨敗の例もあるから、油断は大敵である。
それにしても、福田首相の支持率の低下は看過できない。自民党内でも、小泉元首相とは違い福田首相は、一度下がった支持率が回復するようなタイプの首相ではないと判断している。小泉元首相は田中真紀子外相を更迭した時に支持率を下げたが、安倍晋三氏を幹事長に据えて支持率を上げた。あるいはハンセン病問題の時の政治決断は、今回の福田首相の政治決断とは雲泥の差であった。
かつて森政権の時、2001年の参議院選挙を前にして森首相では選挙に勝てないとして総裁選によって選ばれた小泉首相の下で選挙戦を戦った。今後も福田首相が支持率を下げることがあれば、福田自身、政権にしがみつくタイプではないので、案外身を引くかもしれない。その時は、麻生太郎元幹事長がクローズアップされ、麻生政権の下での解散総選挙という可能性も無きにしも非ずと言えよう。自民党は政権維持のためにはしたたかになるからだ。果たして福田首相は、求心力を回復できるのだろうか。


